9月の第一月曜日、アメリカでは「Labor Day(レイバーデー)」という祝日があります。日本ではあまり聞き慣れないかもしれませんが、働く人をたたえる日として制定され、アメリカでは「夏の終わり」を告げる象徴的な一日とされています。
このレイバーデーにまつわる、ちょっと不思議で興味深い“ルール”があります。それが、「レイバーデーを過ぎたら白いパンツは履かない」というもの。ファッションのルールというよりは、ある種の慣習ですが、今でもこの言い伝えは、特にアメリカ東海岸では根強く残っています。
でも、実際のところどうなのでしょうか?
今回は、南カリフォルニアに暮らす私の視点から、アメリカの季節感とファッション文化について感じたことを綴ってみます。
「No white after Labor Day」って?
「レイバーデー以降は白い服、特にパンツや靴は避けましょう」というこのルール、アメリカでは意外と有名です。英語では “No white after Labor Day” と表現されます。
この考え方の背景にはいくつかの説があります。
季節の区切りとしての白:
昔のアメリカでは、白は「夏の色」とされていました。軽くて涼しげな白いリネン素材の服は、避暑地での装いの定番だったのです。レイバーデーを過ぎれば気温も下がり、秋の訪れとともにダークカラーや重めの素材に切り替えるのがマナーとされていました。
上流階級のドレスコード:
19世紀末から20世紀初頭、ニューヨークやフィラデルフィアなどの上流社会では、夏の別荘ライフを終えたら白い服をしまい、秋冬用の服装に切り替えるのが習慣だったそうです。つまり、白いパンツを秋に履いていると「この人はマナーを知らない」と見なされてしまうこともあったとか。
今では誰も気にしてない? いえ、意外と…
近年では、「白パンツNGルール」はかなり緩くなっています。実際、Vogue誌のファッション記事(Vogue参照記事)でも、「白は一年中楽しんでOK!」と明言されています。YouTubeでもファッション専門家たちが「もう古いルール」として扱っています(動画1、動画2)。
とはいえ、アメリカは広い国。ニューヨークやボストンなど伝統を重んじる地域では、今でも「レイバーデーを過ぎたら白はしまう」という人もいます。TPOをわきまえるという意味で、その土地の感覚を知っておくのは損ではないかもしれません。
南カリフォルニアではどう?
私が暮らす南カリフォルニアでは、ちょっと事情が違います。
8月の2〜3週目になると、子どもたちの学校が始まります。大学(4年制)は9月スタートのところもありますが、小中高は夏の終わりを待たずに新学期が始まるのが一般的。
朝夕には涼しい風が吹く日も増え、うっすらと秋の気配を感じ始めます。ふと空を見上げると、とんぼが飛び始めていたりして、確実に季節が動いているのがわかります。
それでも、日中はまだ30度を超える日が続き、サンダルやノースリーブ姿の人も多い。そんな気候なので、レイバーデーを過ぎても白いパンツを履いている人は実際にたくさんいます。
私自身も、夏の終わりとはいえ、9月初旬までは白いTシャツやパンツ、履いてしまいます。「だってまだ暑いんだもん」というのが正直なところ(笑)。
季節感は「気温」だけじゃない
興味深いのは、アメリカでは“季節”を気温だけでなく、「イベント」や「装い」で感じ取る文化があること。
例えば、8月末にはすでにショッピングモールにハロウィンの飾りが並び始めます。オレンジや黒のデコレーション、パンプキンの雑貨、仮装用のコスチュームなどがずらりと登場。「もう秋?!」と驚きつつも、こうした視覚的なサインが、人々の気持ちを「次の季節」へと導いてくれるのです。
最後に:“白パンNG”はルールじゃなくて知識
この”白パンツはレイバーデーを過ぎたらNG”という話、今ではほとんどの人にとって「知識として知っていればOK」程度のもの。ルールというよりは“アメリカ文化における季節感”を感じるための一つのヒントなのだと思います。
むしろ今のアメリカでは、「ファッションは自由」「季節に縛られない個性を楽しもう」という風潮の方が強く、「秋に白を着るの?すてき!」という肯定的な反応も増えている印象です。
まとめ:着たいものを着よう。でも季節の空気も大切に。
ファッションには文化と歴史が詰まっています。”No white after Labor Day”という言葉も、その一部。
ただし現代のアメリカでは「守るべきルール」ではなく、「そういう文化的背景があるんだな」と知っておけば十分なこと。暑い日が続くなら白を楽しめばいいし、秋の空気に合わせてこっくりカラーを取り入れるのもまた楽しい。
自分らしく、でも少しだけ季節の空気を感じながら装う――それが今のアメリカ流なのかもしれません。