英語の “bug” の使い方と意味の広がり:虫から車まで?
もともと “bug” は「虫」を意味する言葉でしたが、時代や使われる場面によって、意味がどんどん広がってきました。
たとえば、コンピュータの「バグ」や、風邪のような「ちょっとした体調不良」、「盗聴器」や「人をイラつかせる存在」まで、多様な意味を持つようになっています。
最近では、「旅行にハマる=travel bug」や、「マジでバグい(=すごすぎる、常識を超えてる)」といった若者言葉としての使い方や、ドイツの自動車フォルクスワーゲン ビートルをアメリカでは”Bug” というニックネームで呼んでいます。
このように、多彩に変化した “bug” の使い方と、その歴史を簡単に解説します。
「虫」=本来の意味(語源)
- 語源:中英語(中世英語)のbugge(幽霊・お化け)に由来したもので、怖い存在が語源だったのが、「見えにくくて不気味な小さな生き物」へと意味が変化していきました。
→ 出典:メリアム‐ウェブスター(Merriam-Webster)社の英英辞典 - 現在の意味:日常英語では「虫(insect)」全般を指します。ただし、昆虫学では Hemiptera(カメムシ目) だけを「true bug」と呼ぶという限定的な意味もあります。
- 使用例:
There are bugs in the garden.(庭に虫がいるよ。)
「コンピュータの不具合」=テクノロジーのバグ
- 歴史:
- 1878年:トーマス・エジソンが手紙の中で機械的なトラブルを bug と表現しています。→ 出典:Edison Invents the Technical ‘Bug’
- 1947年:ハーバード大学の「Mark II」で、本物の蛾(moth) がリレーに挟まってコンピュータの不具合を引き起こし、それを「バグ」と記録しています。
→ 出典:Wikipedia: Bug (engineering)
- 意味:ソフトウェアやハードウェアの不具合、エラーを指します。
- 使用例:
There is a bug in the code.(コードにバグがあります。)
「病気」=軽い感染症や不調
- 歴史:19世紀後半から「風邪」や「胃腸炎」のような軽い病気も「bug」と呼ばれるようになりました。見えない微生物(ウイルスや細菌)を「小さな生き物=虫」と見なしたことに由来しています。 → 出典:Stack Exchange Network
- 使用例:
There’s a stomach bug going around school. (学校で胃腸風邪が流行っています。)
「盗聴器」=スパイの道具
- 歴史:第二次世界大戦後、盗聴器のことを「bug」と呼ぶようになりました。特に有名なのが、1945年にソ連がアメリカ大使館に仕掛けた「The Thing(ザ・シング)」という装置です。これは初期の盗聴器が飾り板に仕込まれ、モスクワにある駐ソ連アメリカ大使の書斎に1952年まで7年間飾られていたことが後に明らかになりました。見えないところに隠された「小さな装置=虫」に例えられたことから由来しています。 → 出典:Russia Beyond および Wikipedia: The Thing (listening device)
- 使用例:
The FBI planted a bug in the suspect’s office.(FBIが容疑者のオフィスに盗聴器を仕掛けた)
比喩・口語表現
意味1:「夢中になっている」「ハマっている」
- 歴史:19世紀には「虫に取りつかれた」ような熱中を指す意味で使われ始めました。「ファン、熱狂者」を意味する「バグ」から由来しているようです。→ 出典:OUP Blog
- 使用例:
She has caught the gardening bug.(彼女はガーデニングにハマっています)
意味2:「イライラさせる」「うっとうしい」
- 歴史:「いらだたせたり、困らせたりする言葉」の名詞としての「Bug-word」は1560年代に生まれ、20世紀初頭から、小さな虫がまとわりつくような「不快さ・苛立ち」を比喩的に表す動詞として使われるようになりました。→ 出典:etymonline
- 使用例:
Stop bugging me!(イライラさせないで!)
「車」=Volkswagen Beetle(フォルクスワーゲン・ビートル)の愛称としての“Bug”
- 歴史:「Bug」が自動車を指すようになったのは、1960年後半頃からです。ドイツで生まれた小型大衆車は「Volkswagen Type 1」と呼ばれていたのですが、その丸みを帯びた愛らしい外見から、アメリカを中心に「Volkswagen Bug」や「VW Bug」と呼ばれるようになりました。このあだ名は、ビートル(beetle = 甲虫)という公式モデル名(1945年以降)にちなんでいます。車体の形が昆虫のようだったことから、”Bug” というカジュアルな愛称が親しまれるようになり、いまでも世界中で使われています。→ 出典:Mental Floss
- 使用例:
- My grandma used to drive a VW Bug back in the ‘70s.(おばあちゃんは70年代にフォルクスワーゲン・バグに乗ってたよ)
まとめ表:英語の「bug」の意味と歴史
意味カテゴリ | 時代・起源 | 意味・用法例 | 主な出典・参考資料 |
---|---|---|---|
虫(本来の意味) | 中英語 bugge(幽霊・怖い存在) | 小さな虫全般。昆虫学では「true bug」はカメムシ目限定 | メリアム‐ウェブスター(Merriam-Webster)社の英英辞典 |
コンピュータの不具合 | 1878年(エジソン)、1947年(Mark II) | ソフトウェアやハードウェアのエラー | Edison Invents the Technical ‘Bug’、Wikipedia: Bug (engineering) |
病気(軽い感染症) | 19世紀後半 | 風邪や胃腸炎などの軽い症状 | Stack Exchange Network |
盗聴器(スパイ機器) | 第二次世界大戦後(1945年「The Thing」) | 隠された盗聴装置の俗称 | Russia Beyond、Wikipedia: The Thing (listening device) |
夢中・ハマる(比喩表現) | 19世紀(ポー『The Gold-Bug』など) | 趣味や活動への熱中 | OUP Blog |
イライラさせる | 20世紀初頭 | うっとうしい・邪魔な行動を表現 | etymonline |
自動車(VW Bug) | 1960年代後半〜 | フォルクスワーゲン・ビートルの愛称「Bug」 | Mental Floss |
「○○bug」英語表現 一覧テーブル(意味・語源・背景まとめ・完全版)
最後におまけとして、「○○bug」で表現される英語表現を一覧表にしてみました。
英語表記 | 意味/用法 | 語源・由来 | 歴史・背景 | 耳より情報 |
---|---|---|---|---|
bug(基本) | 虫、エラー、風邪、盗聴器、イライラ、熱中など多義語 | 中英語 bugge(幽霊)→「見えない不気味な存在」 | 16世紀:恐怖対象→虫/19世紀〜:病気・不具合/20世紀〜:盗聴器や俗語として拡張 | 日本語の「バグ」もここから派生。 |
ladybug | テントウムシ(米:ladybug /英:ladybird) | “Our Lady’s beetle”=聖母マリアの虫(宗教的比喩) | 中世ヨーロッパ:農業の益虫→キリスト教の影響で命名 | 幸運の象徴。英語圏の絵本やアニメに頻出。 |
litterbug | ポイ捨てする人 | litter(ゴミ)+bug(うっとうしい奴) | 1947年:米国の環境保護キャンペーンの造語 | 米国・カナダでは公共マナー啓発で使用される軽蔑表現。 |
travel bug | 旅行熱、旅に夢中な人 | travel(旅行)+bug(取りつく虫) | 19世紀:旅行熱(wanderlust)の比喩として定着 | Geocaching 用語でも “Travel Bug” は存在(追跡番号付きアイテム)。 |
stomach bug | 胃腸炎などの軽い感染症 | 微生物(ウイルス等)を「虫」と見なした比喩 | 19世紀:ウイルスやバクテリアの概念とともに広まる | “There’s a stomach bug going around” は定番表現。 |
computer bug | コンピュータの不具合/バグ | エジソンが最初に技術的問題を “bug” と表現した記録あり | 1878年:エジソン、1947年:Mark II に実際に虫が挟まった事件で定着 | “debug” もここから派生(バグを取り除く)。 |
listening bug | 盗聴器、スパイ機器 | 見えないところに仕込まれた「小さな装置」を虫にたとえた比喩 | 1945年:ソ連が米大使館に設置した「The Thing」が有名な実例 | スパイ映画で定番の用語。 |
Volkswagen Bug | フォルクスワーゲン・ビートル(愛称) | 車名「Beetle(甲虫)」に由来し、丸い形から「Bug(虫)」と親しまれた | 1960年代:米国を中心に「VW Bug」の愛称で親しまれるように | ビンテージ車市場でも人気。 |
firebug | 放火魔、火遊びする人/(昆虫名)ホシカメムシ科の一種 | fire(火)+bug(虫/熱狂者) | 19世紀:米俗語で「放火に異常な関心を持つ人」の意味に | 実在する昆虫「firebug」もヨーロッパで確認されている。 |
bedbug | トコジラミ(吸血昆虫) | bed(寝床)+bug(虫) | 古代ローマ時代から記録あり。19〜20世紀には大都市で大流行 | 一時はほぼ絶滅したが、21世紀に再流行。ホテルのレビューにもよく登場。 |
jitterbug | (名)ジターバグ:1930年代のスイング系ダンス(日本語でジルバ)/(俗)神経質な人 | jitter(神経質になる)+bug(人) | 1930年代のスウィング時代:ビッグバンドと共に流行 | ダンスとしての jitterbug はリンド・ホップに近いスタイル。 |
lovebug | (俗)ラブラブな人たち/(昆虫名)ラブバグ(北米に生息) | love(愛)+bug(虫/夢中になる者) | 昆虫としては Plecia nearctica。俗語としては20世紀中頃から登場 | 車のラジエーターに大量に付着する厄介な昆虫としても有名。 |
bugbear | こわいもの、忌避対象、悩みのタネ | bug(恐怖)+bear(熊)→「恐怖を与える想像上の怪物」 | 中世ヨーロッパで子どもをしつけるために語られた怪物 | 現代では “My biggest bugbear is noise.” など、口語で「苦手なこと」として使われる。 |