アメリカで嫌われる声?「Vocal Fry (ヴォーカル・フライ)」とは

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再生すると、「なんだかイライラする」と感じるアメリカ人は少なくないそうです。その正体は、独特のガサガサ声「Vocal Fry(ボーカルフライ)」。日本ではあまり耳慣れないこの声のクセが、なぜここまで話題になるのでしょうか?今回はその正体と歴史、さらに日本の若い女性の声との比較まで掘り下げてみます。

Vocal Fryってどんな声?

Vocal Fryは正式には 「ボーカルフライ・レジスター(Vocal Fry Register) と呼ばれます。ここでいう レジスター(register) とは、声帯の振動の仕方によって分類される声のモード、つまり声の出し方の種類のことです。

声帯がゆるく閉じた状態で空気がゆっくり流れると、不規則な振動が起こり、「パチパチ」「トロトロ」といった音が混じった低い声になります。歌の世界では表現技法のひとつとして知られていますが、日常会話に混ざると妙に耳に残り、特徴的な印象を与えます。

この声は、「かすれた声(creaky voice)」 とも呼ばれます。イメージとしては、壊れかけのレコードのようなガサガサした低音です。

歴史と広がり

実はこの発声法、昔から存在していました。イギリスの上流階級が話すRP(Received Pronunciation:地域の訛りが少なく、上品で標準的な発音)の中にも、意図的に低くガサガサしたかすれ声(creaky voice)を加える人がいたのです。俳優ショーン・コネリーの渋い声を思い浮かべれば納得できるでしょう。

一方アメリカで注目されるようになったのは21世紀。特に若い女性のあいだで、無意識に、あるいは都会的で垢抜けた雰囲気を演出する手段として広まりました。大学キャンパスやセレブのインタビューで耳にすることが増え、次第に「若い女性の声」と結びつくイメージが定着していったのです。

誰が良く使うのか?セレブとValley Girl

Vocal Fryを多用する有名人といえば、アリアナ・グランデ、ブリトニー・スピアーズ、エマ・ストーン、キム・カーダシアンなど。音楽や映画の世界で活躍する彼女たちの話し方が、若い世代に模倣され、さらに広がっていきました。

そして忘れてはならないのが、南カリフォルニアの「Valley Girl(バレー・ガール) です。
1980年代、サンフェルナンド・バレーの女子高生や大学生の話し方を揶揄する言葉として「Valley Girl」が広まりました。語尾を上げる uptalk(アップトーク:文末が疑問形のように聞こえるイントネーション)や、間延びした発音が特徴的で、「Like, oh my gosh!」のようなフレーズが典型例。

2000年代以降は、そこにVocal Fryが加わりました。つまり「Valley Girl的なしゃべり方+Vocal Fry」という組み合わせが、アメリカ人にとって「いかにも南カリフォルニアの若い女性の声」という強烈なイメージになっているのです。だからこそ、YouTube動画のコメント欄に「イライラする」という反応が集まるのも納得です。

アメリカ社会の受け止め方

Vocal Fryは「都会的」「洗練されている」と評価されることもありますが、ネガティブな見方も根強く存在します。ある研究では、Vocal Fryを使う女性が「信頼性に欠ける」「有能に見えない」と判断されやすいことが示されました。就職面接などフォーマルな場では特にマイナスに働くとされ、若い女性の話し方に対する偏見と絡めて議論が続いています。

さらに、長時間使い続けると声帯に負担がかかり、結節や腫れなど喉のトラブルにつながる可能性も指摘されています。ファッション的に取り入れるだけならよいのですが、長期的には健康面でもリスクがあるようです。

日本の若い女性の声との比較

アメリカの若い女性が低めでガサガサした声を使うのに対し、日本の若い女性は真逆の方向を選んでいます。日常会話では実際の声よりも高めにトーンを上げ(300–350Hzほどで、自然な女性の声より高い)、「かわいい」「幼い」「控えめ」といった印象を強調するのが一般的。語尾を柔らかくしたり、鼻にかかった声で話すこともよく見られます。

これは文化的な背景の違いをよく表しています。アメリカでは「個性や都会的な洗練」を演出するために低音でVocal Fryを交える。一方日本では「女性らしさ」「かわいさ」を求められる社会的圧力から高音を作り出す。声という日常的なものにさえ、文化の価値観がはっきりと反映されているのです。

比較まとめ表

項目アメリカのVocal Fry
(若い女性)
日本の高音・かわいさ重視の
話し方
音声の特徴低くガサガサした“クレイキーボイス(かすれた声)”高音や鼻にかかった“かわいい声”
社会的印象非攻撃的・都会的・教育層に多いがネガ評価も弱さ・かわいさ・幼児性の演出(文化的圧力)
社会的背景セレブ文化・模倣・正式さより個性や垢抜け感の演出ジェンダー規範・女性らしさ・社会的期待の反映
声の健康への影響長期間の使用で声帯への負担あり得る特定なし(主に音の高さや語尾の問題)

まとめ

Vocal Fryは、単なる発生のクセではなく、文化やジェンダー、さらにはキャリアや健康にまで関わる現象です。南カリフォルニアのValley Girl文化から広がり、セレブを通じて定着し、今やアメリカ社会で「嫌われる声」「都会的な声」という両極端の評価を受けています。

一方で日本の「かわいい声」と比較すると、「声をどう操るか」が社会の期待や自己表現の方法に直結していることがよくわかります。気づけば私たちも、無意識に声を操って「どう見られるか」を調整しているのですね。

次にアメリカ人の会話を耳にしたとき、「あ、これがVocal Fryか!」とチェックしてみると、英語のリスニングがちょっと違った角度から楽しめるはずです。

📌参照:

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