「やめないけど、がんばりすぎない」働き方の正体とは?
Quiet Quitting(クワイエット・クイッティング/静かなる退職)という言葉を聞いたことはありますか? 一見、「静かに職場を去ること」と思われがちですが、実は辞職とはまったく違う意味を持ちます。 この言葉が指しているのは、「最低限の仕事だけをして、それ以上はやらない」という働き方。 つまり“やめないけど、頑張らない”。これが静かな退職の本質です。
静かな退職の意味と語源
Merriam-Webster辞典によれば、静かな退職とは「期待以上の努力をせず、自分の職務範囲内だけをこなす仕事の姿勢」。昇進や評価を狙うこともなく、静かに与えられたタスクだけをこなす——そんな人たちはQuiet quitters(静かな退職者)と呼ばれます。
Cambridge Dictionaryでは、「最低限の仕事しかしないことで、精神的には会社から“退職”している状態」とも説明されています。 つまり、静かな退職とは「職場に“いる”けれども、心は離れている」という、ちょっと皮肉な働き方なのです。
歴史:静かな退職は新しい概念?
この言葉自体は2002年頃から使われ始めたと言われていますが、注目を集めたのは2022年のTikTok動画がきっかけです。 その背景には、パンデミックを経て広がった「仕事より生活」「無理しない働き方」への関心がありました。
BBCによると、静かな退職はもはや一過性の流行ではなく、多くの人にとっての“新しい普通”になりつつあるといいます。
私も静かな退職者です
大きな声では言えませんが、実は私自身も今、静かな退職中です。
昇進を積極的に目指す気持ちはあまりなく、今の働き方にある程度の安定と納得を感じています。 (…できれば給料は上がってほしいんですけどね。)
また、新しい職場で人間関係を一から築くことに不安があるのも事実です。 今の職場に馴染むまでにも時間がかかりましたし、自分の性格上、次も同じようにうまくいくとは限りません。 そんな思いから、今は“無理せず働く”という選択を大切にしています。
アメリカの職場では、「それは私のジョブディスクリプション(職務内容)に含まれていません」と、堂々と線引きをするのが普通です。 時には、「あなたは私の上司ではないので、その指示は受けられません」とはっきり断る人もいます。
一見、冷たく感じられるかもしれませんが、これは「自分の責任範囲を守る」=プロ意識の表れという文化なのです。 私もその中で、自分なりの距離感とバランスを見つけながら働いています。
雇用主やマネージャーの苦悩
では、雇う側、マネージャーの視点から見た場合はどうでしょうか?
静かな退職者は、表向きには最低限の業務をこなしており、評価や注意の対象になりにくい一方で、企業の経営が厳しくなった場合、真っ先にリストラやレイオフの候補に挙がる可能性があります。 なぜなら、パフォーマンスが明確に高いわけではなく、組織への貢献度が見えにくいためです。
Forbesによると、静かな退職は「マネジメントの欠陥を映し出す鏡」と言われています。 多くの静かな退職者は、評価されないことへの失望や、過重労働への疲弊を経験しており、それが静かな退職という形で表れています。
ただ、現実としてはチーム全体のバランスが崩れたり、やる気のある社員に仕事が偏ったりするなど、マネージャーにとっては頭の痛い問題です。
たとえば、プロジェクトに協力を求めても「それは私の仕事ではありません」と断られた場合、他の誰かがその穴を埋める必要が出てきます。 その結果、「頑張る人が損をする」ような不公平感が生まれ、職場の士気が下がることも考えられます。
つまり、静かな退職は個人の選択であると同時に、職場全体の構造や文化を問い直すサインでもあるのです。
雇用形態と多様性の中で
日本でも最近、「ジョブ型雇用」という言葉をよく耳にするかと思います。 欧米のように職務内容を契約で明確に定義し、それ以外の仕事は原則やらないという働き方が少しずつ浸透しつつあるようです。
このような雇用のあり方が広がれば、静かな退職はむしろ当たり前の働き方になっていくのかもしれません。 重要なのは、雇用者と労働者の間で認識と期待が一致しているかという点です。
仕事に情熱を持つ人もいれば、子育てや介護との両立を重視する人、仕事は単なる収入源と割り切る人もいます。 そうした多様な価値観が尊重される職場でこそ、静かな退職は“問題”ではなく、選択肢のひとつになるのではないでしょうか。
英語での使い方
I’ve been quiet quitting since last year — I just do what’s required.
→ 去年から静かな退職をしています。必要なことだけやってます。
Quiet quitting doesn’t mean being lazy — it’s about setting boundaries.
→ 静かな退職は怠けているという意味ではなく、境界線を引くことです。
まとめ
静かな退職は単なる「やる気のなさ」ではなく、自分の人生や健康、働き方を見直すための静かな意思表示です。 雇用主側も従業員側も、互いの期待値や価値観を尊重し合える関係が築ければ、静かな退職は“退職”ではなく、“新しい定義“になるかもしれません。
今の時代、がむしゃらに働くことだけが正義ではありません。 あなたにとって心地よい働き方とはどんなかたちですか?
引用元:Merriam-Webster辞典、Cambridge Dictionary、Quiet Quitting Is A Sign Of A Deeper Problem—Here’s What It Means、‘Quiet quitting is the status quo’: Workers are still proud to do the bare minimum


